Yagira Yuya 柳樂優彌

Monday, May 24

「嬉しい」…日本人初のカンヌ男優賞は弱冠14歳の新人俳優!

柳楽優弥  第57回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門受賞式が22日(日本時間23日未明)行われ、是枝裕和監督の「誰も知らない」に主演した新人俳優、柳楽 優弥=やぎら・ゆうや=が史上最年少の14歳で男優賞を受賞した。日本人が同賞を受賞するのは初めて。最高賞のパルムドールにはブッシュ政権を批判した米 マイケル・ムーア監督の「華氏911」が選ばれた。 〔写真:快挙を成し遂げた柳楽優弥は大勢の報道陣に囲まれ緊張気味。仏滞在中の是枝裕和監督からの国際電話には笑みがこぼれた=東京・渋谷区=撮影・奈須稔

 弱冠14歳の新人が、カンヌの大舞台で快挙を成し遂げた。この日、柳楽は都内で会見し「(同作品が)初めてのオーディションで初めての演技なのに、カン ヌで賞を獲るなんて2度とないかも。嬉しくてたまらない」。歓喜の声をあげつつも、緊張した表情には、少年のあどけなさが残る。

 都内の公立中3年で部活はサッカー部。12日にカンヌ入りしたが、中間テストを控えていたため勉強道具を持参。16日に帰国し17日に 受けたテストの結果は「全然ダメでした」と苦笑いしたが、カンヌでは最高の成績を収めた。22日夜は都内自宅近くの祖母宅に母親と泊まり、CS放送の受信 機がある叔父宅から電話で現地からの中継の模様を聞いていたが、「絶対起きている」つもりだったのに熟睡。「3時頃お母さんに起こされて知った」と第一報 は寝ぼけ眼だった。

 一昨年夏に「友達がやっていたからいいなぁ」と思い立ち、自ら履歴書を送り芸能事務所入り。約1カ月後、難航していた同作の主役オーディションを受けた ところ、是枝監督が「目の印象が強い」と気に入り即決。同秋から約1年の撮影に臨んだ。その間、身長が12~13センチも伸びた。

 作品は、実際に起きた事件をモチーフに、母親に見捨てられた父親の違う兄妹4人が、自分たちで生きていこうとする姿を見つめたドラマで、柳楽は長男役。 母を責めず、幼い弟妹を懸命に支え守ろうとする12歳を好演し、審査員の仏女優、エマニュエル・ベアールに「心からのキスを贈りたい」といわしめた表現力 を見せた。

 現場では「台本は(渡され)なくその場で台詞を言われましたが、監督の教え方がうまいので緊張しなかった」と楽しそうに振り返った。日本は7月公開。 「大人にこの映画を観てもらって『子供を簡単に捨てるな、おもちゃのように扱うな』と感じてほしい」と、カンヌを魅了したキリリとした瞳を輝かせた。

 途中、カンヌの是枝監督と電話がつながり「フランスでも好評だよ。(会見は)緊張しないで頑張れ」と激励されると何度も頷いていた。

 尊敬する俳優は「以前ドラマで共演した押尾学さん」。現在、テレビ朝日系「電池が切れるまで」(木曜後9・0)に出演中。7月以降もドラマに出演予定で、主演映画も1本決定。これからは誰にも「知らない」とは言わせない。

 一方、ほかの日本作品では、押井守監督のアニメ「イノセンス」、木村拓哉(31)が出演した香港映画「2046」(ウォン・カーウァイ監督)の前評判が 高かったが、受賞は逃した。日本の同名漫画を原作とする韓国映画「オールド・ボーイ」(パク・チャヌク監督)が審査員特別大賞を受賞。主演のチェ・ミンシ クは「シュリ」で日本でも知られる存在だ。このほかタイ映画も審査員賞を受賞、アジア勢の活躍が目立った。

★宮崎淳監督作品が「若い視点」賞

 宮崎淳監督(38)の「FRONTIER」がコンペティション部門外の監督週間・短編部門で「若い視点」賞を獲得した。東京郊外の団地の風景をつづった 34分の実験映画で、宮崎監督は「偏見のない若い人が選んでくれてうれしい。ストーリーがなく音楽が流れるだけのこういう映画が、カンヌで上映されること が珍しかったのだと思う」と話した。

カンヌ国際映画祭で主要賞受賞の日本映画と日本人受賞者
52年 (第5回) 撮影賞 杉山公平(源氏物語)
54年 (第7回) 最高賞 「地獄門」(衣笠貞之助監督)
60年 (第13回) 審査員特別大賞 「鍵」(市川崑監督)
63年 (第16回) 同賞 「切腹」(小林正樹監督)
64年 (第17回) 同賞 「砂の女」(勅使河原宏監督)
65年 (第18回) 同賞 「怪談」(小林正樹監督)
78年 (第31回) 監督賞 大島渚監督(愛の亡霊)
80年 (第33回) 最高賞 「影武者」(黒沢明監督)
83年 (第36回) 同賞 「楢山節考」(今村昌平監督)
90年 (第43回) 審査員特別大賞 「死の棘」(小栗康平監督)
97年 (第50回) 最高賞 「うなぎ」(今村昌平監督)
04年 (第57回) 男優賞 柳楽優弥(誰も知らない)
※敬称略

★ムーア監督は歓喜の涙

マイケル・ムーア監督  最高賞のパルムドールに輝いたマイケル・ムーア監督=写真=は授賞式の壇上で「何をしてくれたんだ。自分はまったく気が動転している。メルシー!」と歓喜の涙。総立ちの会場の拍手を浴びながら、審査委員長のクエンティン・タランティーノ監督らに驚きと喜びの感情をぶつけた。

 受賞作「華氏911」は、米中枢同時テロ以降のイラク戦争での米ブッシュ政権の対応を痛烈に批判した作品。式後の会見で、イラク戦争に反対したフランス (の映画祭)だから受賞できたのでは?と聞かれたムーア監督は「これはフランスの賞ではない。審査委員9人のうち、フランス人は1人で米国人が4人と多数 を占める国際的な賞だ」と反論。さらに「今では多くの米国人がフランスはよき友人で、米国に(イラク戦争は)誤った道だと言おうとした、と分かるように なった」と持論を展開し、「政治的発言を意図して作ったのではない。タランティーノ監督から(受賞は)政治とは関係ない。審査員の中でも政治的な意見は違 う。君は素晴らしい作品を作ったんだと言われた」と続けた。

華氏911
 米中枢同時テロ前後のブッシュ大統領の動向を検証、ブッシュ家とサウジアラビアの有力者一族との緊密な関係を探った記録映画。イラク日本人人質事件の映 像などを含む衝撃的な内容。米国では、ディズニーが傘下のミラマックスに同作品の配給を拒否させて問題となった。今年夏に日本公開予定。ムーア監督は前作 「ボーリング・フォー・コロンバイン」で米国の銃社会を糾弾、昨年の米アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞した。

第57回カンヌ国際映画祭の主な賞
最高賞 「華氏911」(米、マイケル・ムーア監督)
審査員特別大賞 「オールドボーイ」(韓国、パク・チャヌク監督)
女優賞 マギー・チャン(香港、「クリーン」)
男優賞 柳楽優弥(日本、「誰も知らない」)
監督賞 トニー・ガトリフ監督(アルジェリア、「エグザイルス」)
脚本賞 アニエス・ジャウィ、ジャンピエール・バクリ(仏、「ルック・アット・ミー」)
審査員賞 イルマ・P・ホール(米、「レディ・キラーズ」)
「トロピカル・マラディ」(タイ)
国際批評家連盟賞 「華氏911」

http://www.sanspo.com/geino/top/gt200405/gt2004052403.html

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